Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事では古民家ブックカフェなどを運営する「Dongree」代表の柴崎友佑(通称:ドリー)さんにインタビューした内容をご紹介します。
ーNCLに参画したきっかけを教えてください
NCLを知ったのは、代表の林さんがポスト資本主義について話している記事を見たことがきっかけです。
NCLに入る前に、ポスト資本主義についてネットでたくさん調べていた時期があって。その時に結構な頻度で林さんの名前を見かけて気になっていたんです。それで林さんが立ち上げたNCLを知って、当時住んでいた京都の近く、滋賀県湖南市でも起業家を募集するという情報を見て、興味を持って応募しました。
ーーポスト資本主義に興味を持ったのはなぜですか?
大学を卒業してから、僕は一度も就職をしたことがなくて。しばらくはフリーランス仕事とフリーターとして日雇いバイトなども含めた色んな仕事をしてギリギリ生活を送っていました。そしてカマンの限界に達して、一念発起し2015年にウェブ制作事業などを行う「Dongree」を立ち上げ、その翌年から京都で「Dongree コーヒースタンドと暮らし道具店」というお店を始めて、生活をしていました。
個人で事業をする才能があったというより、ただ就職したくなかったというネガティブな気持ちと、社会人になったら会社に所属してお金を稼ぐしかない、という人生の選択肢の少なさを否定したかったことが原点にあって。
なので、自分で事業をつくって生活するというのを続けていたんですが、その事業というのも「お金に頼らない暮らし」を見つけるために行っていることなんですよね。お金に頼らなくていいコミュニティーや場づくり、働き方を実現したくて始めたことです。
そうした想いを持つなかで知った「ポスト資本主義」はまさに僕が考えていたことと近いものがあって。今の資本主義社会とは別のレイヤーをつくることで、今起きている社会問題を解決しようとする考え方がすごくいいなと思いました。
それまではひとりでお金に頼らない暮らしを実現するために事業を続けていたけど、それをより多くの人に広げるための次のステージに進むにはどうしたらいいかというのを考えていた時期でもあったので、NCLと一緒に取り組めばそれができると考えて、参加することを決めました。
ーーNCL湖南に入ってからはどんな活動を行ったんですか?
まず最初は住まい探しから始まりましたね。一旦借りた家に住みながら、職住一体でお店の運営をしながら生活ができるような物件を探していました。
ただ、物件を探しているだけでは地域の人に認知してもらえないなと思ったので、活動を知ってもらうために「湖南ふるほんマルシェ」などのイベントも開催していましたね。
物件が見つかってからはお店づくりに取り組みはじめました。築50年の古民家だったので、床梁りから行って、工務店に入ってもらうこともありましたが、ほとんどをDIYで改修しました。
途中、遊びにきた友達に壁の漆喰を塗ってもらったり、オープンリノベーションという形で誰がいつ来ても改装を手伝えるようなイベントを行ったりもしましたね。
外観からは予想がつかないような非日常感を味わえるような空間をつくりたくて。お店のある場所は湖南市の中でも人通りが少ないエリアなので、たまたまお店を見つけるというのはほとんどない。そうするとわざわざお店に訪ねてくれる人がほとんどになるので、その人達にサプライズができるような、どこにもない空間をつくりたい、と思って改装に取り組んでいました。
お店がオープンしたのは2020年8月。改装は丸1年かけて行ったんですが、京都のお店の営業やふるほんマルシェなどの地域でのイベントも開催しながらだったので、すごく濃密な1年になりましたね。
ーーお店ではどんなものを提供しているんですか?
湖南市の新店舗には「DONGREE BOOKS & STORY CAFE」という名前をつけました。コンセプトは「ストーリーのあるカフェ」。店づくりの段階からストーリーがありますが、お店で提供している食べ物や本もストーリーがあるものを提供しています。
置いている本は、本との思い出や読んで感じたことを書いたしおりが挟んである「栞本」。すべて古本なんですが、本の内容だけでなく栞を通して元の持ち主のことまでも想像して楽しめるのが特徴です。
カフェでは、ランチと自家焙煎のコーヒーなどのドリンク、パフェなどのスイーツメニューを販売しています。それぞれに湖南市の地域性やブックカフェならではのコンセプトを取り入れていて、このお店だからこそ味わえるメニューを揃えています。
このお店ができたことで、新しい人の流れが生まれて、まちの変化に貢献できている実感を持てています。地域の人のなかには、僕がここに来てくれて嬉しいと伝えてくれる人も多くいて、そうした声を聞くと本当に湖南市にきてよかったなと思いますね。お店にわざわざ訪ねてくれる人がいる状況からも、仕事のやりがいを感じることができています。
ーーNCL湖南での活動を通じて、感じたことはありますか?
地域おこし協力隊の制度を活用しながら、NCL湖南というひとつのチームで活動できたことはすごく事業にとってプラスなことが多かったなと思います。お店の物件探しをする時や1年目に取り組んだイベントなどの運営も、NCLのコーディネーターと湖南市の行政のコミュニケーションが取れていたからこそスムーズに進みました。
また、チーム単位で同時に複数人が移住するのもすごくよかったですね。なかなか一人で地域に入り込むのは難しいことですが、複数人いるとそれぞれで地域との接点をつくることができるので、信頼関係が広がっていくんですよね。僕がまだ出会ったことがない人でも、NCL湖南の他の人を知っているから、仲良くなれるみたいなことが起きたり。それ以外のことでも、同時期に起業に向けて取り組んでいる人たちが周りにいるのは、すごく心強かったですね。
ーー最後のNCLに興味がある人へメッセージをお願いします。
NCLという組織があるからこそ、起業に向けたチャンレンジがしやすい場面があるので、自分一人では自信がないという人にもぜひ入ってもらえたらいいなと思っています。もちろん大変な場面も多くありますが、起業にあまりリスクを感じすぎずに、気になったらチャレンジしてみてください。
<プロフィール>
柴崎友佑
就職経験ゼロのまま、フリーランスとフリーターの間のような不安定な生活が10年続き、我慢の限界に達して起業を決意。「お金がなくても豊かに暮らしたい!」の一心で、個人事業Dongreeを起業、2016年に京都で店舗オープン。2019年には滋賀県湖南市へ移住。その後古民家での職住一体のブックカフェを経営しつつ、今は自ら山林に入り、森林にまつわる事業展開を模索中。