Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事では石川県加賀市の山代温泉でカジュアル工藝とウェルネスを提唱するコンセプトサロン 「月月」を運営する藤永晋悟さんにインタビューした内容をご紹介します。

 

ーNCLに参画したきっかけを教えてください

NCL加賀が立ち上がるという情報を、妻が偶然SNSで見つけたのがNCLを知ったきっかけです。

石川県加賀市は妻の実家があって結婚式を行った場所でもあるので、自然と訪れる機会も多く、もともとおもしろい地域だなと思っていました。

そんな中で、移住するつもりはなかったんですが、加賀市で新しい取り組みが始まることに興味を持って、なんとなく説明会に参加してみたんです。

そうしたら、その説明会ですごく刺激を受けてしまって。それまでNCLのことは全然知らなかったし、地方創生にも興味がなかったし、社会課題を解決したいという問題意識を高く持っていたわけでもないんですが、代表の林さんの話がすごく面白かったんですよね。

 

ーどんなところに刺激を受けたんですか?

当時NCLは立ち上がったばかりだったこともあって、そんなに認知度も高くない団体だったんですよ。説明会の会場もマンションの一室だったし、少し怪しい雰囲気を持った中で、登壇者の林さんが小さな我が子を抱っこしながら「世界を変える」と言っていて。「この人は何なんだろう」と思いながら、すごく熱意、本気を感じたんですよね。

林さんが言っていた「ポスト資本主義」という言葉も僕がそれまで完全に資本主義社会の中で生きていたからこそ話がよくわかって。「ないものは自分たちでつくる」、「自分たちで新たなレイヤーをつくる」という話がすごく腑に落ちました。

そうした考えを持った林さんに出会えたのと、もともと思い入れのあった加賀市に拠点ができるというので、NCL加賀に参画することを決めました。僕自身は意識を高く持っていたわけではなくて、おもしろいと思ったところに吸い込まれていった感覚です。全部なりゆきでしたね。どれかひとつでも違っていたら、入っていなかったと思います。

 

ー着任してからはどんな活動をしていたんですか?

NCL加賀に入ったのは、2017年12月。当時は自分で起業した仕事を東京で行っていたので、最初は二拠点で生活をしていました。

移住して最初の半年で行ったのが、漆器の新しい使い方をデザインするプロジェクト「ARABIKI」の立ち上げです。その後はARABIKIとしてマルシェや工芸イベントへの出店を1年半くらい続けていました。

新しいことを始めるとすごく地域の人たちが珍しがってくれるのが印象的でしたね。一方で、反応してもらえることは嬉しいんですが、自分としてはただ思いついたアイデアを形にしているだけだったので、それ以上取り組みが成長していく可能性を感じることができなくて。

なので、ARABIKIを続けながら、地域外から訪れた人だからこその発想を生かしたプロジェクトが始められないかと考えるようになりました。

そこで、着想を得たのが「北前船」です。北前船は、江戸時代中期から明治時代の中期に、北海道と大阪などを日本海経由で結び、米や魚などの物流を行っていた船のこと。加賀市も経由地のひとつになっていて、モノだけでなく、人や文化を交易させる役割も担っていたそうです。

その北前船のように、僕が県外の工芸品を加賀市に持ってくるのがいいんじゃないかと思って始めたのが、「A&Ko」です。僕がプライベートで愛用して集めていた沖縄の焼き物を、ARABIKIとして出店した時に一緒に販売するところから始めて、もともと地域にあった工芸品と外にあった工芸品を多く取り扱うようになり、新しい事業のひとつになりました。

 

ー移住して半年で新規事業を始めたのはとても早く感じますね。

僕は遅いと思っています。地域おこし協力隊制度を活用しているから、毎月お金が入ってくる状況ができていましたが、それがなかったら生きていけないですよね。NCL加賀に入ってからもその感覚を持っていたので、半年は想定より長くかかってしまったなと思っています。

時間がかかったのは、人脈づくりを丁寧にやる必要があったからというのが理由です。漆器を扱うために、自分が工場に働きに行って実際に器をつくったり、職人のみなさんと信頼関係ができて初めて取り扱わせてもらうことをお願いしにいけたので、そこは丁寧に行う必要がありました。

やっぱり3年間の任期の中で、稼げなくてもいいから試行錯誤しながら事業をするというのを続けていると、ずっとその温度感でやってしまいそうな危機感があるんですよね。それよりは、やってみてだめなら他のことをどんどん試していくスピード感でやるのがいいなと思っています。

 

ー今はどんなことをしているんですか?

3年間を終えて、2020年6月からA&Koが運営する直営店として「月月」の運営をスタートしました。

リアルな場所をつくろうと思ったのは、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいです。

それまで東京で行っていた仕事がコロナ禍になった途端、不安定になってきて。自分ではどうしようもないような状況がたくさん生まれてきたんです。そこで、スモールビジネスでもいいから周囲の影響を受けづらい、自分自身で歩けるような仕事をしていくのがいいなと思うようになりました。僕の中では「自分で歩く」=お店を持つことだったので、春から月月の構想を考えて、6月にお店をオープンしました。

コロナ禍の状況にならなかったら、お店は持っていなかったと思います。きっと東京と二拠点での仕事を続けていたと思いますね。

オープン当初は「カジュアル工藝をいつもの生活に。」というコンセプトで石川県と沖縄県の工芸品を取り扱うお店として、営業していたんですが、今春から順次店内もリニューアルをしていて、カジュアル工藝とウェルネスを提唱するコンセプトサロンとして生まれ変わってきています。

今後は私たちが老舗企業と組んでプロデュースした〝植物△線香〟という新規事業や、ハーブを用いた植物療法(フィトテラピー)のカウンセリングにも注力していきます。店内奥には、瞑想体験ができる部屋も用意し体験型コンテンツも始める予定です。

ーお話を聞きながら、加賀での事業がすごく順調に広がっていることが伝わってきました。地域の人たちにもよく受け入れられているんですね。

加賀に移住して、4年経ちますが、ずっと動き続けていると地元の人と喋れる言語が増えてくるんですよね。それは市役所などの行政も同じで。時間と結果を積み重ねていくと、相談に乗ってくれたり、重要な事業が始まる時に声をかけてもらえたりする機会が増えるようになりました。

何か大きいことを成し遂げなくても、自分のできることを続けていくことで、地域の人たちがちゃんと見てくれるんですよね。それはすごく嬉しいことで、積み上げていくことの大切さを実感しています。

 

ー最後にNCLにこれから参画しようとする人へメッセージをお願いします。

自分の興味のあることがあれば、まずはやってみるのがいいと思います。だめならまた考え直せばいいし、失敗して死ぬようなことをしなければいい。

動きながら考えるのが今の時代だと思うんです。それは事業を始めるのも、移住するのも同じです。

面白いもので、そのひとつの結果として、地方創生にも社会課題解決にも興味がなかった私のような人間が起業と移住を通して、率先してそれらに立ち向かうようになりましたしね。

 

<プロフィール>

藤永晋悟

東京都出身。文化服装学院卒業。アパレル企業にてバイヤー等を経験後、国内外のブランド発掘やプロデュースを手掛ける。2016年に㈱ONTOSを立ち上げ、コミュニティ デザイン・プランニング業を行っている。東京から石川県加賀市へ移住。カジュアル工藝とウェルネスを提唱するコンセプトサロン 月月を主宰。日課は家族で温泉。2児の父。