Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事ではNCL西条で寄付による支援を行いたいという個人や企業と、地域の課題を解決するために活動している市民活動団体とを結びつけるプラットフォーム「ZEN」を立ち上げ活動している鈴木直之さんにインタビューした内容をご紹介します。

 

ーNCLに参画したきっかけを教えてください

NCLに入る前までは、大阪の梅田でショットバーを経営していました。そのお店に、当時NCLのスタッフだった人がよくきてくれていて。その人に「今度愛媛県の西条市に拠点をつくることになって、起業家を募集するから、お客さんでいい人がいたらぜひ紹介してね」という話をされたことがあったんです。

もともとNCLのことは知っていたので、改めてその西条市での募集を見てみたんですが、テーマになっていた「テクノロジー×ローカルの事業開発」にすごく興味が湧いて。誰かを紹介するよりも、僕が行ってみたいなと思って、応募することを決めました。

 

ーテクノロジーを活用した地域や社会の仕組みづくりに興味を持っていたんですね。

そうなんです。実はバーを始める前はIT関連の仕事をしていて、店舗運営のバックオフィスやウェブサイトの管理、リアルとオンラインを連動させたイベントの企画などを行っていました。

インターネットが日本で普及し始めた1990年代から可能性をすごく感じていて、いつかネットを活用した事業をつくりたいと思っていました。その中でも特にやりたかったのが、リアルな場とオンライン上のコミュニティーをつなげること。大阪でやっていたバーでもその考えから独自のSNSを開発して、お客さんがオンライン上でつながれるサービスを運用していた時期もありましたね。

場をつくるのがもともと好きなんだと思います。だからバーをやっていたのもありますが、リアルな場だけじゃなくて、ネット上につくるともっとその場が持つ可能性が広がっていきますよね。だからこそ、テクノロジーに興味を持って、そのよさを活かした地域や社会の仕組みづくりができればと考えました。



ーNCLに入ってからはどんなことを?

もともと募集時点では、地域の課題や困りごとなどをリストアップ・可視化し、それを解決できる担い手とマッチングさせることで、グローバル経済に影響を受けない小さな地域経済圏をつくることを予定していました。しかし、それは制作チームの都合もあって途中でできなくなってしまって。

なので、テクノロジーを活用した取り組みで地域に貢献できる可能性があるかどうか、地域の人たちに課題に感じていることをヒアリングするところから活動がスタートしました。

そこでわかったのは、西条市にまちの課題を解決するための市民団体やサークルが多いこと。120以上の団体があって、子育て支援や介護などのボランティア活動が盛んに行われていました。そのうちの約10団体の代表の人達にインタビューをしたんですが、みなさん活動にかかる経費を所属している人たちの持ち出しで負担していて、資金面でとても苦労していることがわかったんです。困っている人を助けたり、まちをなんとかしようとしたりすると、やればやるほど、活動している人たちが苦しくなるような状況ができていた。それはとても持続可能な状態とはいえないので、そうした活動をしている人たちをサポートできるような仕組みをつくろうと考えるようになりました。

それで生まれたのが、今運営している「ZEN messenger(以下、ZEN)」というサービス。

ZENは一日一善の善から由来していて、地域の課題を解決するために活動している市民活動団体と寄付による支援を行いたい個人や企業を結びつけるプラットフォームです。

サービスを始めてから2年半が経ったんですが、お金がうまく市民活動団体に分配されていく流れをつくることができてきたので、まちを支えている感覚を持ててきたところです。とてもいいサービスをつくれたなと思っています。

本当にここにたどり着くまでが大変でしたね。今の状態に行き着くまでに、5回システム変更をしているんです。なかなかユーザーが増えない状況が続いていたので、どうしたら使ってくれる人が増えるかを考えながら、試行錯誤を繰り返してきました。


ー短期間にアップデートを繰り返してきたんですね。

結構な頻度ですよね。でも何度もブラッシュアップする中で気づいたことがあって。

ひとつは、本当の課題は地域の団体に活動資金が集まらないことではなくて、そもそも自分たちの地域にどんな活動があって、どんな人たちがどういう思いでやっているのかがまったく見えないということです。

団体のことや活動を知らないと、そもそも応援することもできないですよね。なのでZENでは、地域のまちづくりに関する活動の見える化を第一に考え、それが同時に資金的な支援にも繋がる「ソーシャルドネーション」という日本初の仕組みを作りました。

ふたつめは、僕が実現したいことを叶えるためのサービスにしてはいけないということです。

まちのための活動をしている人たちが困らないようにしたい、という想いが僕の中にあっても、それをどうでもいいと感じるユーザーが大半なんですよね。僕が解決したい課題と、ユーザーがサービスに求めることは必ずしも一緒ではない。

だから、僕の想いを実現するためのツールじゃなくて、使ってくれる人たちが価値を感じてくれるようなサービスをつくらないといけないなと考え直してつくったのが、今のバージョンです。自分がやりたいことの押し付けではだめだと気づけたのは大きいですね。

 

ー今後の展望は?

まちづくりとは何か、と考えると僕は「そのまちが好きな人を増やしていくこと」だと思うんです。まちのことを好きになるためには、自分が地域に関われている実感を持てることが重要で。ZENはまさに、誰もがまちの一員であることを感じてもらえる状況を目指してつくったサービスです。

今、ようやくZENを利用して、喜んでくれる人が増えているところなので、これをもう少し続けながら、しっかり形にしていきたいなと思っています。

西条市の市長からも「ZENのやろうとしていることが、住み続けたくなるまちづくりにつながることだと思うので、連携してやっていきましょう」と話をされているところで。まずは西条市でしっかりとしたモデルをつくりながら、いずれは他の自治体や団体、他のNCLの拠点にもこの取り組みを広げていけたらいいですね。



ー最後にメッセージを

受け身の気持ちでNCLに入って、何かをしようとするのはすごく難しいと思います。イメージとは違って、結構泥臭かったり、自分次第なところもあるので、NCLの仕組みを生かしながら、自分でどんどん動いていく人が向いていると思います。そういう人の方がより楽しんで活動をすることができると思いますね。

 

 

<プロフィール>

鈴木直之

大阪府出身。父親の仕事の関係で小学校・中学校と南米ペルーで過ごす。2019年3月、一般社団法人Next Commons Labと愛媛県西条市が実施しているローカルベンチャー誘致・育成事業に参加し、西条市に移住。ZENTECHを立ち上げ、ソーシャルドネーションアプリ「ZEN messenger」の企画・開発・運用を行う。