Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事ではNCL湖南で2021年までコーディネーターを務めていた釘田和加子さんにインタビューした内容をご紹介します。

 

ーーNCLに参画した理由を教えてください

NCLのことは、SNSの投稿を見て知りました。地元の滋賀県大津市にUターンしたばかりの時期で、当時は会社員をしていたんですが、よりローカルに関わりながら人の役に立てることを実感できるような仕事をしたいなと思って、応募することを決めました。

Uターンする前は、4年間インドでJICAのスタッフとして働いていたんです。現地の人たちの所得向上や保健衛生の向上などを行う日本のNGOのサポートをコーディネーターとして行っていたんですが、そこでの経験があったことからNCLでも誰かの活動をサポートする仕事ができればと考えました。また、自分では起業するイメージを持てなかったのも、コーディネーターを選んだ理由のひとつです。

初めて「ポスト資本主義社会を具現化する」というNCLのコンセプトを聞いた時は、不勉強だったので、ちゃんと意味をわかっていなかったんです。でも、説明会で話を聞きながらそうした考え方があることにすごい衝撃を受けて。そういうビジョンを持った取り組みが地元の滋賀県で展開されるなら、ぜひ関わりたいなと思いました。

ーーNCLではどんな活動をしていましたか?

NCLに参画したのは、2018年12月。私より先にコーディネーターと起業家メンバーがそれぞれ2人ずつ着任していて、先に地域との関係性づくりなどの地ならしはされていた状況でした。

最初の1年目は本当に手探りで、起業家メンバーの活動のサポートや新規募集の担当をしていました。同時にインドに関わることも継続的にやりたいと思っていたので、湖南市に住んでいるインド人の方とヒンディー語講座を立ち上げたりもしていましたね。

 

ーー「サポート」とは具体的にどんなことをしていたんですか?

事業の本格的なアドバイスは、専門のアドバイザーの方が対応するようになっていたんですが、日々細かな相談にのったり、行政とのつなぎ役をしたり。あとは融資申請やDIY、広報も手伝っていましたね。

ーー釘田さんはコーディネーターとしての活動だけでなく、事業継承して自分でもプロジェクトを行っていると聞きました。

はい。湖南市下田地区の伝統野菜「弥平とうがらし」を加工販売する会社「fm craic(エフエムクラック)」を引き継いで、事業を行っています。事業継承したのは、NCLに着任してから2年が経った頃。インド関係の共通の知人を通じて知り合った方が、もともとやっていた事業なんですが、その方が私が個人的に弥平とうがらしを使った料理をSNSに投稿していたことを面白がってくれて。「一緒に事業をやりませんか?」と声をかけてもらって手伝うようになりました。

その後、創業者のふたりが出産や引っ越しなどの理由で、事業を続けられない状況になってしまって。事業をたたむという話もでたんですが、「このままこの事業がなくなったら後悔するな」と思って私が引き継ぐことを決めました。

 

ーー「自分で起業するイメージが持てなかった」ところから、変化があったんですね。

NCLでコーディネーターとして活動しながら、起業家メンバーのサポートがちゃんとできているのかどうか、悩んでいたこともその変化の理由としてあるんです。

自分が起業したことがないのに、起業しようとする人のサポートをするのが辛く感じていた時期があって。寄り添うだけでは役に立てていない気がして、自分も事業をすることでより起業家メンバーの気持ちを理解できたらいいなと思いました。

 

ーー今「fm craic」ではどんなことをしているんですか?

唐辛子の加工品販売です。弥平とうがらしの生産は農家さんがしてくれていて。その唐辛子を買い取って、乾燥させて、粉にしてソースなどの加工品をつくっています。また、ECサイトの運営や商品発送、小売店への納品など、パートのスタッフの方に手伝っていただきながら、作業を行っています。

ーーコーディネーターとして、大切にしていたことはありますか?

最初の時期は、起業家メンバーの活動に寄り添うことを意識していました。ですが、先程も言った通り自分が起業家メンバーのサポートができているのかすごく不安に感じていたので、コーディネーターとして自分が何かできたという実感は全然なかったですね。

コーディネーターは、サポートしている相手の事業がうまくいくことが喜びだと思うんですが、どの事業も常に右肩上がりに進むわけではないので成果も見えづらいし、そもそも自分がサポートしたからというよりも、起業家メンバー本人の頑張りがあるからこそ、事業がよくなるイメージがあって。すごく悩んだし、すごく大変でした。

でも、fm craicの事業を始めてからは、より起業家メンバーに近い実感を持って相談にのれるようになったので、少しは役に立つことができているかなと思っています。事業をやっている人同士の立場として話せるので、サポートというよりは、一緒に仲間として取り組んでいく感覚が強くなりましたね。NCLを離れた今、起業家メンバーとコーディネーターという関係性ではなくなってしまいますが、これからさらに私自身が事業の経験を重ねていくことで、より役に立てる場面や一緒にできることがあるんじゃないかなと思います。

 

ー今後の展望を教えてください。

ひとまずはfm craicの事業を盛り上げて、会社の経営を続けていきたいなと思っています。

知識がないまま経営をしているので、これからどうやって売上を伸ばしていくかすごく悩んでいるんですよね。唐辛子という素材だけで、注目度を増やしていくのは難しいところもあるのかなと思っているので、別の手段も考えながら、試行錯誤していきたいなと思っています。

また、インドもすごく好きなので、いずれは2拠点で生活や活動ができたらいいなとも考えています。現地の人のためになるようなことと、今やっている事業が繋がるとおもしろそうですね。

ーー最後にNCLに興味がある方へメッセージをお願いします。

私は何か決断をする時に、自分がその先どうなっていくのかをちゃんと決めているわけではないんですよね。自分がやりたいかどうか、おもしろいかどうか、後悔しないかどうかだけを判断して、飛び込んでいるような感じです。

なので、興味がある方は自分の直感を信じて、やりたいと思ったらやってみるのがいいんじゃないかなと思います。自分が思い描いているものとは違う方向に進んでいくかもしれないけど、予想していなかった自分になっていくのもおもしろいですしね。

想像していた以上におもしろいことが起こると思うので、ぜひ飛び込んでみてください。

 

 

<プロフィール>

釘田和加子

中学時代からインドに興味を抱き、大学を休学しインドへ。卒業後は貿易会社勤務を経て、JICAインド事務所NGOデスクにてコーディネーター業務を担当。帰国後、よりローカルな分野に関わりたいとNCLに参画。2021年1月、滋賀県湖南市の伝統野菜「弥平とうがらし」の加工品製造・小売を行う株式会社 fm craic(エフエムクラック)を事業承継し代表取締役に就任。