Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事ではNCL遠野で2019年までコーディネーターを務めていた室井舞花さんにインタビューした内容をご紹介します。

ーNCLに参画したきっかけを教えてください

NCLに参画する前から代表の林篤志とは繋がりがあって。遠野での事業が始まる2014年ころに、林からNCLの構想について説明を受けて「一緒にやりませんか?」と声をかけられたのが、最初のきっかけです。

その時に、NCLのコンセプトとプロジェクトを岩手県遠野市から始めることを聞いて、すごく興味を持ちました。

当時ちょうど私は日本のよりローカルなコミュニティの中に自分自身が身を置いて生活することを考えていたタイミングだったんです。

それまで働いていた国際NGOピースボートでは、「世界一周の船旅」をコーディネートしていたんですが、世界各国色々な地域を、住むのでもなく、縁が続くわけでもなく、訪問者という形で周りながら世界の中の「ローカル」について考えるようになって。そうするとグローバリズムによって、多くの地域でその土地の個性が奪われていることに危機感を抱くようになりました。また、資本主義が民主主義をどんどん凌駕して、大きなマーケットや政治機能が市民の力を抑えてしまっているようにも感じていたんです。

そんな中で「ポスト資本主義社会をつくる」NCLの構想が、この世界を構成しているとても重要な文化や価値観を守る動きに繋がるかもしれないなと思って、参画することを決めました。

ーNCLではどんなことをしていたんですか?

遠野に来てすぐは、なぜか「プロジェクトの一環」だということで豚を飼っていましたね(笑)起業家メンバーより先に豚が着任してました。

ほかにも、空き家を改修してラボメンバーが住む家を整備したり、事務所をつくったり、最初は現場仕事みたいなことばかりしていましたね。豚を飼うことも含めて、かなりカオスな日常だったと思います(苦笑)

ある程度、住む場所や働く場所が整ってきたタイミングから、事務局としての役割を担うようになりました。そもそも遠野でNCLの取り組みが始まったばかりの頃は、メンバー内での役割も決まっていなくて。起業家を地域に集めることとそれぞれが取り組む事業でポスト資本主義を目指すことだけが決まっていた。なので、私が何をするかは遠野に来てから考え始めました。

もともと遠野に来ると決めた時もずっとこの場所にいるんだというイメージではなかったことと、「この場所でこれがしたい」というような考えもなかったので、自分は起業家ではないというのはわかっていました。そこで、自分がプレイヤーになるのではなく、「誰かのやりたいことをサポートしたい」、「コーディネーターという役割を通じてNCLの掲げるビジョンを体現していきたい」という想いから事務局・コーディネーターを務めることに決めました。と言っても、当時は「コーディネーター」という肩書や役割はなかったので、後から「あ、私がやっていることはコーディネーターと呼ばれるものだったんだ」と気づかされたというほうが近いですね。

コーディネーターとして行っていたのは、行政とラボメンバー、地域、そしてNCLに関心を持って全国各地から遠野を訪れる人たちと地域やメンバーを繋ぐ役割。NCLが始まったばかりの時期はみんなわからないことだらけだったので、地域の人に向けてNCLの説明をしながらラボメンバーを紹介したり、行政職員とローカルベンチャー事業を行うための仕組みを整えたり、それぞれの間に入って調整する役割を担っていました。立ち上げの次期はとにかく色々なことが同時に起きていたので、毎日違う業務をしているような感じでしたね。

ーコーディネーターをする上で大切にしていたことはありますか?

地域にあるものを、否定したり、踏みにじったりしないように意識していました。私たちの役割は、その地域にすでにあるものから可能性を見つけ、活用していくこと。自分たちがいいと思うものを勝手に外から持ってきて、地域の人たちに押し付けるようなことはしたくないなと思っていました。

また、もうひとつはNCLのメンバー全員が安心できるコミュニティーをつくること。

活動を続けていくうちにだんだんとNCLが目指すものと協力してくれる地域の人たちとの温度感のギャップが生まれたタイミングがあって。同時にラボメンバーも活動の悩みやフラストレーションを溜めてしまって、大変な時期がありました。それが2017年ころ。

ある意味でそれまでの人間関係をリセットして、新しい場所にきて、地域の人達から「この人たちは何をするんだろう」という見られ方をしながら活動を続けていたら、それはストレスになってしまいますよね。それを原因に、体調やメンタル的な部分で調子を崩してしまって、プロジェクトが思うように進められないメンバーもいました。

そうした状況が続く中で、起業に向けた事業のサポートを行うだけでなく、起業家メンバーが安心して過ごせるような場所をつくることが大切だと気づいて。2017年の後半からは、起業家メンバーのメンタルヘルスや、NCLというコミュニティー、チームを維持していくことに重心がシフトしていったように思います。

—活動を続ける中で「ポスト資本主義社会を実現する」ビジョンに近づいた感覚はありますか?

もちろんそんなに簡単に実現できることではないというのはわかっているんですが、ビジョンに近づいていくための踏み出しと下地になるような活動ができたかなと感じています。特に、最初に着任した起業家メンバーが地域おこし協力隊を退任する2020年に開催した活動報告会でその実感を得ました。

私はその報告会でみんなの成果を改めて認識して、メンバーの3年間の積み重ねによって自分がコーディネーターとして活動してきたことへの達成感を得ることができましたね。

 

ーー事業をつくる起業家メンバーのサポートをするコーディネーターは活動の実感を得るまでに時間が必要なんですね。

そうなんですよ。そもそも、私は裏方として動くことが性に合っていて、表立って何かをするのは苦手なタイプ。そういう自分の性格もありますが、他の人から見るとコーディネーターは評価されにくいし、成果がわかりづらい。コーディネーターの活動が報われるタイミングは簡単にはきません。だからこそ、広い視野と長期的な視点を持つことが大切だなと思いました。

 

ーー最後にNCLのコーディネーターとしての活動に興味がある人へメッセージをお願いします。

プロジェクトに取り組むのはチーム戦なので、ひとりですべてをやる必要はありません。一緒にやるメンバーの中でそれぞれが得意なことを発揮できるように、みんなが気持ちよく活動する場を整えていくのが好きだという人はとてもコーディネーターに向いていると思います。

 

また、さっき話した「時間が経ってから達成感を感じられる」というのは、言い換えればコーディネーターだからこその醍醐味です。ぜひこれからなろうとする人には、結果がわかりづらくても活動を続けながら、コーディネーターだからこそできることの面白さを感じてもらえるといいですね。きっと楽しいと思いますよ。

 

 

<プロフィール>

室井舞花

18歳で国際NGOピースボートの「地球一周の船旅」に参加し、帰国後スタッフに。約10年勤め、60カ国以上を訪問、地球を7周する。2016年夏からNCL創業メンバーとして参画。現在はひきこもり/不登校/発達障害/性的マイノリティなどの当事者・経験者による団体(一社)ひきこもりUX会議の事務局長として、場づくり、調査・発信、各種プログラムの企画運営などを通じて誰もが生きやすい社会を目指し当事者活動を展開中。ひきこもりUX会議:https://uxkaigi.jp