Next Commons Lab(以下、NCL)が全国各地で行っているローカルベンチャー事業。各拠点では、地域資源を活用した事業を立ち上げる起業家とそのサポートを行うコーディネーターが活動しています。それぞれのメンバーは、どんな理由でNCLに参画し、どんな想いを持って活動を行っているのか。この記事ではNCL奥大和で2020年まで起業家として「馬と生きるプロジェクト」を行っていた安部史織さんにインタビューした内容をご紹介します。

 

 

ーNCLに参画したきっかけを教えてください

NCLに入る前は、北海道で競走馬のお世話をする厩務員をしていました。その仕事を退職し、2017年に出身地である大阪に戻ってきて、そこでも馬に関わる仕事を続けたいなと考えていた時に、NCL奥大和のコーディネーターをしていた方と知り合って、NCLのことを知りました。

ちょうどその頃はNCL奥大和の立ち上げの時期で、そのコーディネータの方から「馬に関わる仕事を宇陀市でやってみませんか?」と誘っていただいたんです。そこで、馬の馬糞堆肥を使った循環農業を軸に、馬を活用して地域に人がより多く訪れるような事業を提案させていただきました。

その事業提案が無事通って、採用が決まり、2017年12月からNCL奥大和での活動がスタートしました。

 

ー馬の仕事についていたのはなぜですか?

もともと幼い頃から動物が好きで、その中でも飛び抜けて馬が好きでした。馬との関わりもなんとなく乗馬よりはお世話をしたり、馬と触れ合ったりすることが好きだったというのが、馬に関わる仕事に就きたいと考え始めたきっかけです。

馬に関わる仕事に就こうと仕事を探し始めて見つけたのが、競馬場での厩務員の仕事。当時はどんな仕事か知らなかったんですが、開業したばかりの優しい先生のもとで教わりながら馬のお世話や調教をしていました。

その仕事は6年続けていたんですが、長く関わっていると競走馬の末路が気になるようになってしまって。

人と馬の関わりを増やして、多くの馬の未来を拓きたい。私自身も人とも馬とも、もっと接する仕事をしたいなと考えたのもNCL奥大和に参画することを決めた理由のひとつです。

 

ーNCL奥大和での活動は?

1年目はとにかく地域内で馬を飼うことを目標に活動していました。NCL奥大和の拠点がある宇陀市は、馬になかなか馴染みがなかった地域で、農業や祭りの歴史を見ても馬との関わりがなかったり、市内に馬がいる場所が県営のアニマルパークしかなかったんです。

その中で、地域の方にそもそも私自身を知ってもらうということと、私が馬を飼いたいと思っていることを伝えて回りながら、馬が暮らせる場所探しを行っていました。

活動してから1年が経って、ようやく場所が見つかったタイミングで、小屋を立てて、馬を飼い始めるようになりました。一番多い時には馬を3頭飼っていましたね。

その馬たちと一緒に、どんな事業ができるかを模索したのが2年目です。馬が農業を行う馬耕や馬で物を運ぶ馬搬に挑戦してみたり、お客さんを乗せて地域内を回るホーストレッキングをしたり、いろんなことにチャレンジしました。

そこでできることとできないことがわかってきたので、3年目には今も私が飼っている愛馬のスペちゃんとホーストレッキングを続けながら、マルシェも開催していました。

特に継続して行っていたのはロート製薬が宇陀市で運営している「はじまり屋」さんと連携した、循環農業です。はじまり屋は宇陀市内に農場を持ち、循環型有機農業を行っている団体。

はじまり屋さんが農作物の栽培を行う畑に馬の堆肥を活用しながら、にんじんの葉っぱやレタスの外葉、出荷できない野菜などを馬の飼料としてもらっていました。

小さい範囲でも循環農業に携われたのはすごくよかったなと思っています。

ー3年間の活動はどう感じていますか?

地域の方と繋がりをつくりながら、その中で馬と一緒に暮らし、循環農業やホーストレッキングを行うというのは、3年間の中でおおむねうまく行うことができたんじゃないかと思っています。

もちろん活動を行う中で、大変なことやトラブルもありましたが、地域の中に馬がいる風景をつくるという意味では、地域の人にも受け入れてもらえた実感がありましたね。

ただ、馬と一緒に事業を行うという面ではとても難しさを感じました。事業を広げていくどころか、私ひとりが生活するのも厳しいんじゃないかという状況だったので、想像していたよりも大変でしたね。

最終的に今私が飼っているのはスペちゃんだけなんですが、私と彼女で一緒に仕事をする中で、彼女の身体がよくないときはどうしても休むことしかできなくて。その治療にもたくさんのお金が必要になり、馬と一緒に仕事をする難しさをとても感じました。

それでも、いろんなことにチャレンジできたのはすごくよかったなと思っています。当初の事業計画通りに行うことができなくても、プランを変えながら、段階を踏んでいろんなことを検証できたので、満足感を得られているんだと思います。

もちろん、その活動をする中でコーディネーターの方たちにお世話になったこともすごく大きかったです。地域の方を繋いでいただいたり、それぞれの事業を影から支えていただいて、そうしたバックアップのおかげで、安心して事業にチャレンジすることができたなと思っています。そうしたチャンスと時間をいただけたことはとてもありがたかったです。

今は3年の活動期間を終えて、一旦大阪に拠点を移し、スペイン出身で馬の獣医をしている方のもとで修行をしています。その方は、馬に蹄鉄をつけない「裸蹄」専門の装蹄師をしていて。一度その方にスペちゃんを見ていただいた時に、裸蹄を始めたら彼女の体調がどんどんよくなるのがわかって、私も同じように健康で幸せな馬を増やしてあげたいなと思い、その人のもとに師事することを決めました。

その先生の拠点が大阪にあるので、宇陀市からは離れてしまったんですが、今でも地域の方との関係性は続いています。改めて振り返っても、NCL奥大和に来れたことや地域の方たちと関われたことは、すごくいい経験をさせていただけたなと思っています。

 

ー最後にメッセージをお願いします

これは私の経験で感じたことですが、「地方に移住する」ことを目的にするよりも、なにかやりたいことがあって、活動するほうがうまくいくんじゃないかと思っています。

もちろんそうではなく、移住した後からやりたいことを見つけて、成功している方もいらっしゃるので一概にそうとは言えませんが、私は奥大和に移住する時に「地方に移住する」ということは目的ではありませんでした。

やりたいことがあって、たまたまタイミングと場所、人の縁が重なって、奥大和で活動することになった。やっぱり好きなことがあって、それをやりたいと思えるモチベーションがあったからこそ、大変なことがあっても3年間活動を続けることができたなと思っています。

なので、今何かやりたいことがあって二の足を踏んでいる方がいれば、ぜひNCLに入ることを検討してみてほしいです。

コーディネーターや地域の方々に支えられながら、好きなことに挑戦し続ける経験がきっとその後にもつながっていくと思うので、ぜひ思い切ってチャレンジしてみてください。

<プロフィール>
安部史織

2017年12月からNCL奥大和に参画。現在は奥大和でともに活動した馬の「スペちゃん」と、大阪府和泉市で獣医さんのもと修行中。